夜11時55分。
塩谷崇之(しおや たかゆき)は、暗い部屋の中でスマホを握りしめていた。
目の前の画面には、ラジオアプリのアイコン。
彼の唯一の習慣――**「テレフォン人生相談」**を聞くことだった。
「こんばんは、ドリアン助川です。」
低く落ち着いた声が響く。
今日の相談者は、40代の男性。
「私は、自分の人生が失敗だと思っています。」
その言葉に、塩谷の心がざわめいた。
「若い頃の夢も諦め、今はただ生きているだけです。」
ラジオの向こうの声は震えていた。
「後悔していますか?」
助川の静かな問いかけ。
「はい……でも、もう遅いんです。」
「そんなの関係ねぇ、ですよ。」
塩谷は息をのんだ。
「人生は、今からでも変えられます。」
「でも、もう40代ですよ?」
「何歳でも関係ありません。大事なのは、これからどうするかです。」
相談者が沈黙する。
塩谷は、スマホを見つめながら思った。
「……俺も、変われるのか?」
ふと、長年触れていなかったギターが目に入る。
若い頃の夢。
音楽で生きることを諦めた自分。
「……そんなの関係ねぇ、か。」
彼は、ゆっくりとギターを手に取った。
ラジオの向こうで、助川が優しく言った。
「あなたは、もう一歩踏み出しましたね。」
夜空には、静かに月が輝いていた。
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